こんにちは、宮島です。前回に続き、10年後の住宅業界が、また日本人の家とのかかわり方が、どんな風になっていったらいいか。そのヒントを与えてくれる、藤原和博さんの著書「家づくり」についての続きです。
「家と人間の関係の機微をわきまえた施主」すなわち、「お宅通」こそが、これからの日本の「住まいや暮らし方」に求められていること。施主でありユーザーである「あなた」が、家や暮らしに哲学し始めた時、「お宅通」が増えた時、日本の家の豊かさは革命的に変わり始める。住宅業界に身を置いているにもかかわらず、いざ自分の自宅になると、意外とどうでもよっかったりして・・・ボクの知る限り業界人で「お宅通」である人がいかに少ないか、も革命的に変われない一因だと思います。こういった住まいのあり方、考え方以外にも、この本の中には、僕たちがあたりまえのように何気なく進めている仕事のやり方が間違っているかも、また、改めて本質を見直さなければ!といった気づきをたくさん与えてくれています。「お宅通」のユーザー目線からの視点で、とても具体的なポイントがいくつも語られています。
≪家をつくって住んでみてから後悔した話≫
建築家や住宅メーカーの社長が書いた家の本は山ほどありますが、施主がホンネで書いた本はほとんどありません。また、家づくりの雑誌や本に、かっこいい事例や成功談は山ほどあるが、失敗談はほとんどないのです。7年前に家を建てた友人からメールをもらって、その指摘がすごく参考になった。
「参考になるかどうかわかりませんが、私がこうしておけばよかった、と思うポイントをお送りします。」
- コンセントの数はひと壁一つ
(PC+スキャナ+プリンタとかTV+BSCSチューナー+レコーダー+ゲーム機など多い、と想像しているより更に多い) - キッチンの分別ごみの多さから、ごみ箱置き場が必要
- 玄関先の欧米風にクロークは使わない。その代りに玄関に子供が汚したサッカーや野球の道具、遊び道具が収納できる場所があればなぁ
- のことばかり考えて、自転車置き場をなおざりにした。4台の自転車が散乱
- クロ-ゼットの扉は、結局外してしまって、子供の服などはプラケースで収納している
- 掘りこたつは全然使わない
- キッチンの足元暖房は全然使わない
もう1回建てさせてくれれば、今度こそは・・・・
≪家というモノを手に入れることが目的となっている日本人≫
大手デベロッパーの施工した分譲マンションや建売住宅を買ったからと言って、その安心や信頼というブランドを手に入れることは出来ても、”住み心地”まで保証されるわけではない。にもかかわらず、私たちは、モデルハウスを訪れると、あたかもそれを手に入れることで、そこにプレゼンされている幸せが手に入るような気になってします。しかし、家は商品ではない。「商品ではないから住宅は買うものではない」このことを私たちはもう一度心にとめて自分の家をつくることを考え始めるべきなのに、陥りがちな私たちの家に対する夢やあこがれは・・・
- 玄関に天井まで抜ける吹き抜け
イタリア製シャンデリアに、教会のようなステンドグラス小窓、ホテルのエントランス風で来客を迎える - 三角屋根には出窓が似合う
出窓から外を覗いているわが子を写真に収めたい。 - 本棚に囲まれた書斎
CDや本、高級ヘッドフォンをつけて、大音量で音楽を聴きながら葉巻を吹かす。ここは俺の情報基地 - テラスでバーベキュー
デッキのテーブルで春先は朝食を、友人を招いてバーベキュー、青空にもうもうと煙が上がり・・ああ、いっそのことピザ窯もつくってしまおうかなぁ・・・
これらほとんどは、長期的に自分たちの生活を豊かにしてくれないことが多い。現実の生活とかけ離れているからこそ憧れる。実際はTVや雑誌の世界からやってきて、自分たちのイメージの中に、知らず知らずに巣作られてしまったものである。
≪解体現場で学び、工夫すること≫
古い家を1軒解体処分する場合、ジョーズの歯のように古屋を食いちぎるパワーショベルで粉々にされた家の残骸は一体どこに行ってしまうのだろうか?今回解体を依頼した業者は、埼玉に中間処理リサイクルセンターを持っていたので見学してきた。中間処理とは、解体現場で出た廃材を、最終処分場である埋立地に持っていく前にリサイクルできる資材を分別するところだ。その膨大なごみの分別という現実を目の当たりにした。
そのすさまじい量の廃棄物を、リサイクル可能にするための膨大な手間・・・自分が「分別収集でリサイクル可能なエコ社会を」、などという言葉を軽々しく使っていたのが恥ずかしくなった。また、私は実際に古屋を解体する前に、オリジナルのレターを妻と一緒に一軒一軒配布して回った。普通は、解体業者が当日の朝、手拭いをもってあいさつ回りをするのが通例ではあるものの、もしそうしたなら隣人は、新しい入居者に対して、解体時初日の「パワーショベル」を第一印象として持つことになるだろう。
【 読み終えて思うこと 】
筆者は、せっかく江戸時代までは、庶民の暮らしの中に大工がいて、日本流の家の直し方や暮らし方があったのに、敗戦後のモーレツな高度経済成長社会の中で、家はモノになり、住宅メーカーやデベロッパーが提供した商品である住宅を手にすることが目的となってしまっている現状を、多面的にかつ辛辣に批判しています。
やってみて失敗が多いというのは、自分たち家族の暮らし方がわかっていない証拠であって、住空間はひとつひとつの選び抜かれたアイテムから出来上がるから、それを吟味して無数の選択をすることが「モノを手に入れる」ことではなく、「家をつくる」ということなのである。それは確かに膨大な手間のかかる作業ですが、住まいや暮らしが欧米の様に「文化」であるとするならば、それぞれの家族の自己表現なしには成り立たないのではないか、というように読み取れました。
家を建てる、ということの各作業工程を自分のアタマで理解しようとしたから、その作業が行われることを事前にシュミレーションし、爆音を上げるショベルカーを関係のない近隣住民がどんな気持ちになるか、という細かい配慮ができたのだと思います。凡人はそんな話を聞けば「ヘー」と感心するだけ。それを具体的に行動された藤原さんはとても非凡な施主であり、ビジネスマンであると思います。こんな施主が日本に増えたら確かに日本人の暮らし方や、家とのかかわり方は劇的に変わるのかもしれません。
ちなみに弊社の近隣あいさつ文です。
キャー、恥ずかしい!!
ご迷惑をおかけするであろう近隣住民の方への配慮(本当の意味での)はほとんどなく。 形式的に必要最低限度の情報がはいっていればいいや、という姿勢が表れてしまっています。 すぐに社内で検討し、少しは気持ちを伝える文章を作って今後近隣の方とのコミュニケーションを見直してゆきたいと思いました。
ビッグピクチャーから、ディテールまで。日本人の家に関するすべてについて書かれた哲学書だなぁ、と感じました。
藤原和博さんの 「家づくり」は、住宅業界に身をおいている人、これから住宅を購入しよう、建てようとしている人にとって、必読の書ではないでしょうか。