2025/07 「日本仕事百貨」掲載記事
リノベーションの
すべてがわかる
気づいたころには独り立ち
「創業以来、今いるメンバーでできる案件をこなしてきて、結果としてゆるやかな成長をしてきました。過去一度もノルマ的なものを課したことはなかったけど、はじめて売上目標を立てることにしました」
「3年以内に年間取扱物件を60件、売上を40億円まで伸ばします。今の粗利率のまま、その目標を達成できれば、社員の平均年収が1000万円を超えてくるので」
そう話すのは、ウダツで代表を務める宮島さん。
ウダツはリノベーションの再販会社です。自分たちが借入金で物件を仕入れ、いったんオーナーとなり、それを外注せずに自ら施工し、ユーザーへ直販するところまで一気通貫でおこなっています。
取り扱うのは、ほとんどが昭和57年以前に建てられた、旧耐震の物件。
売れ残りリスクを考えて旧耐震の物件を買う競合業者は少ないので、比較的安く買うことができる。工事も外注せずに自分たちで手がけているため、品質の高い材料や設備を採用し、手間をかけて施工しても、トータルコストは抑えやすい。
それは結果として、お客さんの買い求めやすさにもつながっています。
事業規模の拡大にともない、新たに現場監督を募集します。
経験を積んで独立するのも歓迎です。OBには、退職後に一級建築士の資格を取得、自分でも大工仕事をしながら、ウダツの現場監督の仕事を業務受託している人もいます。
スピードの早い環境なので、建築についての熱意や知識は欠かせません。ただ、先輩スタッフも未経験から挑戦しているので、受け入れる土壌があります。
目黒駅からバスで5分ほど、マンションの路面店舗の一角にウダツのオフィスがある。
白を基調とした空間に、スチールラックや大きな木製のテーブルなど、温かみと武骨さが感じられる雰囲気。庭もついていて、明るい日差しが差し込んでいる。
日本仕事百貨で取材するのは、これで13回目。
およそ2年ぶりに代表の宮島さんに話を聞く。
「ここ2年ほどを振り返ると、売り上げは4割増えて26億。物件数でいうと3割増えて、年間で47件ほど再販物件を手がけています」
「旧耐震が得意だ、という業界での認知が進んで仕入れ情報が増え、都心の暮らしにフィットする間取プランと値付けが的確にできているのが、その要因かと考えていて」
最近立て続けに販売したというのが、昭和37年竣工の目白台ハウスだ。
5,000㎡以上ある広大な敷地に、地下1階地上8階建て、127世帯。
エントランスホールは広々としていて、デザインも昭和モダンにつくりこまれ、管理人も4人体制。当時のそういった団地暮らしは庶民の憧れだったそう。
昔からずっと住んでいる人たちの建物への愛情もすごく、共用部の修繕にも手厚く費用をかけて大切に住まわれてきた。
そんなマンションを数室仕入れ、丁寧に、しっかりと予算をかけてリノベーションして販売したところ、すぐに完売してしまった。
「築年数が60年以上という事実だけみれば普通は敬遠する。でも、優れた管理状況や十分な積立金と修繕計画がある物件なら買いたい、住みたいと思う人は必ずいる」
「長年にわたり築かれた、住民同士のいい関係性など数値化しづらいポイントも目利きすることで、古いけど着実に売れる物件を取り扱えるようになったと思います」
現在は営業、現場監督、バックオフィス、それぞれ2名のメンバーで、全体で6人の社員がいる。最近は、OBOGのメンバーに業務委託で現場監督をしてもらうことも増えてきたそう。
事業拡大にともない、新たに現場監督を募集することになった。
「うちはリノベーションに必要な工事の構造も原価もすべて知れる。ほかの会社ではできないような経験ができると思っていて」
「大工仕事を覚えて、辞めたあとに一級建築士の資格をとって独立した人もいるんですよ。いまでも彼とは仲良くしていて、今日も来てもらいました」
そういって紹介してくれたのは、大久保さん。
2013年から4年間、ウダツで現場監督の経験を積んで独立。
いまは世田谷に一級建築事務所を構え、業務委託としてウダツの現場監督もしている。
ウダツの前は、設計事務所で5年ほど働いていた大久保さん。
設計は設計、現場は現場という分業制のなかで、もっと現場も見ることができる仕事に就きたいと思うように。そんなときに、日本仕事百貨でウダツの求人記事を見つけた。
「その記事で、宮島が『すべて自分たちでやらないと気が済まない会社』って話していたんですね。設計も施工も自分たちで全部おこなっているところに惹かれて応募しました」
朝から晩まで現場に行って、自分も手を動かす。帰ってきてからは、図面の作成や資材の発注などをする。解体するときに出る木材や鉄などのゴミ出しも、自分たちでおこなっていた。
「業者に頼んだらこれくらいかかるけど、自分たちで出したら原価がわかる。大工仕事も手伝ったら、設備屋さんが少し値引きしてくれて。その差額分が利益にもなるじゃないですか」
「いまでも、そうやって原価をつけていて。つくるための原価がすべてわかるのは、独立するうえですごく役に立ちました」
お金まわりだけでなく、現場で大工さんの仕事を見て学び、空間に壁を立てたり、床を張ったり。施工に関することも、少しずつ技術を身につけていった。
「自分の建築事務所では、いまは大工仕事が多いです。内装工事を受けることもあれば、ピンポイントでキッチンを変えてほしい仕事もありますし、昨年は宮大工さんたちと一緒に戸建てもつくりました」
戸建てまで…!すごいですね。もともと独立願望があったのでしょうか。
「はじめは独立したいって明確には思っていませんでした。ただ、自分で空間をつくりたい気持ちがずっとあったんですよね。その興味に従っていまにいたります」
独立後の働き方についても聞いてみる。
「ウダツの仕事と個人の仕事は半々くらい。自分の仕事が空いているときに、タイミングがあえば、やらせてもらっています。個人だと案件の繁閑があったりするので、空いているときに仕事を頂けるのはありがたいですね」
大久保さんが自分の事務所で請け負った案件でも、ウダツに勤めていたときから付き合いのある職人さんにお願いして、工事してもらうこともあるという。
「業界としては、職人さんの取り合いで問題になるケースも多い。宮島さんが快諾してくれたおかげで助かっています」
ほかにも、もともとウダツのスタッフで、いまは業務委託で関わっている女性の現場監督もいる。また、基本はリモートワークが中心だけれど、新しく入る人が会社に早く馴染めるように、はじめの1年間は宮島さんをはじめ社内のメンバーも出社を前提にするとのこと。
仕組みも柔軟に変えていけるところに、風通しのよさを感じる。
新しく入る人の上司となるのが、現場監督の光畑さん。
現在は全体を見つつ、自身の現場も担当している。大久保さんと同じく、ウダツに入る前は、大手の同業会社で設計の仕事をしていた。
施工管理の仕事は、現地調査をもとに現場の図面を作成するところから。
図面ができたら、宮島さんと協力会社の設計事務所でリノベーションプランを練っていく。内容が固まれば現場に入り、解体、大工工事、内装・設備工事など、すべての工事が滞りなく進むようにスケジュールを管理する。
完成後は不具合がないかを検査し、社内の営業メンバーに引き継ぎをして一区切り。
「宮島とのコミュニケーションひとつで物事が進んでいくので、仕事は進めやすいですよ。でも逆に、自社で仕入れて企画して売るので、しっかりつくり込まないと売れないってところは大変かな」
ウダツの空間づくりは、生活動線への配慮を優先し、余計な装飾を省いていることが特徴だ。
シンプルな空間だからこそ、いかにきれいに納めることができるか。床下配管を数センチ調整するだけで、空間の見え方や使い勝手が大きく変わるため、細部が肝になる。
「リノベーションって、解体してみて想定と違うことがちょくちょく起きるんですね。そのときに、どうリカバリーするかが一番大変だと思います」
たとえば、撤去しようとしていた室内の壁が、実際に工事を進めてみると、実は構造壁で取り除けないことがわかった。
そこで宮島さんたちと相談し、壁を活かしたプランに変更。分厚い構造壁を活かして、防音室をつくったという。そうしたハプニングも楽しんで工事を進めていけると、いろいろ吸収できるはず。
「50年前に大家族が暮らしていた一室200平米以上の部屋を、いまの時代のニーズに合わせて、少人数の家族向けに物件を3部屋に分けて再販することもあります」
「大掛かりなリノベーションを経験できるのは、ウダツならではかなって。それから、物件の変化を感じられるのは楽しいというか、やっぱり達成感がありますね」
取材の終わり際、宮島さんが話してくれたことが印象に残っている。
「45歳でウダツをはじめて、今年で60歳。ウダツはあと10年でいったんたたむ、と決めたんですよ」
少しびっくりしていると、宮島さんが続きを話してくれる。
宮島さんが2〜30代のときは、沢木耕太郎の「深夜特急」に心酔したバックパッカーで、強い円の恩恵を受けてアジア、欧州、南米を旅していたそう。
「あれから30年、途上国は数十倍、先進国でさえ2、3倍経済成長しているのに、日本経済だけが当時のまんま。相対的に貧しくなり、いまやインバウンド客たちが日本を安い国として楽しんでるのを見てると、不甲斐なく、悔しくて」
「いわゆる少子化や年金問題など、大半の若年層が抱く将来不安につながる課題は未解決のまま。それらの課題って、結局は経済成長、つまり給与が年々着実に上がっている、うちの会社は粗利が高くイケてる。そんなふうに、働く社員全員が楽観的な未来を確信できたなら、すべて解決するのでは?というのが自分の帰結で」
「マクロ的なこと、偽善的なことはどうでもいいんです」と宮島さん。
ウダツにいるメンバーも30代中心で、ビジネスパーソンとして成長できる、大事な時期。
自分がのんびりしていては、その未来には辿り着けない。
そこで10年という区切りをつけて、創業以来はじめて売り上げ目標を立てることにした。
3年以内に年間取扱物件を60件、売上を40億円まで伸ばす。今の粗利率をキープできれば、自ずと社員の平均年収を1000万円まで上げることができる。
「もちろん購入してくれる顧客に圧倒的な満足を、という事業のスタイルは変えません。そして、あと10年の経験で社員が独立してやっていける、どの企業からも引っ張りダコの人材になってもらう」
「これらを実行することがこれからの自分がやるべきことかな、と」
(2025/05/13 取材 杉本丞)