書籍紹介 日本の家 v1(リノベーション)

August 03, 2015

こんにちは、宮島です。最近よく思うこと。10年後の住宅業界がどんな風になっているか、ということ。今、23歳で大学卒業した社会人1年生は、いうまでもなく10年後33歳になります。彼らは家が必要になった時、古い家を買ってそれをリノベーションします。住み始めてからも、そのハコを自分らしく使いやすく作り込んでゆき、更にその後も快適空間に育てていくこと自体を生活の中の楽しみのひとつとして暮らしてます。2025年の東京では、オリンピックの記憶も風化してゆき、時代は多様化、成熟社会、複雑化がより一層進んでゆき、その住まい方は便利な立地に住むのなら、「中古を買ってリノベする」という暮らしが「イケている」という時代の流行が出来上がっていて、タワーマンションを購入するような人に対して、世間は露骨に言葉には出さないものの、「今時タワーマンション?バブルっぽくて、ダッサイ!」 いうような10年後になったらいいなぁ、などとくだらない妄想を馳せております。
しかし、今の環境を眺めて見ているその風景は、10年で日本がこんな住宅状況になる可能性はとても低いなぁ、と感じられます。そういった日本になる為には、これからの10年をどうしていけばいいか?そのヒントを与えてくれる、良書が一冊あります。

藤原和博さんの 「家づくり」

藤原さんは東大卒業後リクルートに入社して、圧倒的な業績を上げて、トップセールスマンになりました。しかし、そのランナーズハイならぬワーキングハイともいえるあまりのモーレツな働き方がたたり、30才の時に体を壊しメニエル病をわずらい、それからは無茶な働き方を見直していきます。その後、成熟社会の中での働き方や暮らしのお手本であるヨーロッパに興味を向け、会社に籍をおきながらロンドンの大学で講師として生活する経験をされました。帰国後はリクルート初のフェロー(個人事業主として必要な仕事だけを受ける)という制度を創設し、会社とつきあいました。 自分は40代、50代になった時に、どんな仕事がしたいのか? ヨーロッパをつぶさに観察した経験から、1、教育 2、住宅 3、介護医療 4、組織を超えた個人個人のネットワークの4つがやりたいことである、と結論を導きだし、さらにその中でも最もレバレッジが利きそうな「教育」の世界に飛び込んでいくことを決めました。
そして、杉並区立和田中学校校長の公募で民間人初の校長に選ばれます。そこではまず、「道徳」の授業を廃止し、子供が大人になったらどんな仕事をしたいか、食っていける大人になる為にリアルな世の中で起こっていることを観察する「よのなか科」という授業を実施しました。 「自殺は是か非か」「100円のハンバーガーは安いか高いか」など、複雑な社会で、自分のアタマで考えて結論を導き出す訓練ともいえる授業が、全国の教育界から注目を浴びることに。こういった人生を歩んでこられた「公」の精神と、「成果」を突き詰めることが出来る、すごい方だと思います。

≪この本が言いたいことを本文から引用してまとめました。≫
日本の衣食住のうち、「食」に通じている人を「食通」とか「グルメ」という。「衣」であれば「ファッション通」とか、おしゃれな着こなしの達人的な人はたくさんいるし、それ以外にも業界の裏事情などになにかと詳しい人を「消息通」とか「事情通」、車ならカーマニアと呼ばれたりしている。でも、「住生活」だけには通の世界はない。マンション・戸建マニアなどいないし、住宅は集める対象になりえないというのもその理由かもしれない。
どうして、日本人は今住んでいる家の手入れもそこそこに、使い捨てるように移りすんでいくのか?なぜ、欧米人の様に自分の上の資産価値を下げないように、土日ごとに内側も外側も手を加えて、魅力的にする努力を惜しむのか?友人の新築の家に招かれても、「これいったいナンボしたん?」という質問しか浮かんでこないのはどうしてか?
「あなたのせいではない。」「あなたに教養がないからでもないし、家という資産に感心がないわけでない。」「実は、日本の教育は、家の建て方や改善の仕方を教えない。教育システムに欠陥があるのです。」
ドイツもアメリカ、イギリスも中学の教科書で、家の改装の仕方を教える。家庭では両親の壁の塗り替え、屋根の補修を手伝ううちに、子供も自然とボキャブラリーを増やしながら「お宅通」になっていく。今、日本は経済的に豊かになったのに、「住まう」「暮らす」という面では、それを語ることも庶民の教養とする蓄積がない。寂しいけれど、そういうレベルだ。だからこそ、これから本当に豊かな国になるには、自分自身の住生活について語り、楽しむ「ツウ」を目指してゆかなければいけない。
必要なのは、表面的にカッコいい家を自分の作品として建てたがる建築家でもなく、施工が中途半端なのにバリアフリーやエコ住宅などの今風キャッチフレーズの後追いをする施工会社でもない。そういった業界人の第3者ではなく、施主とよばれる「あなた」が必要なのだ。その「あなた」が、家や暮らしに哲学し始めた時、お宅通が増えたとき、日本の家の豊かさは革命的に変わり始めるであろう。
通とは、むかしの花柳界の用語  「男女の間の人情の機微をわきまえた人」を指した。今、住宅の世界では「家と人間の関係の機微をわきまえた施主」すなわち、「お宅通」こそが求められている。

【 読み終えて思うこと 】
日本では、今も過去も、本当は新築がほしいけど、手が届かないなら中古でしょうがない、と「新しさ」という価値、それが住宅を選ぶ判断の軸となっています。価値観そのものを消費者自身が変えなければ、供給側の業者側は求められるものを供給するので、今までのやり方を相変わらず続けている、という悪循環から抜け出せないのです。下のグラフを見てください。中古住宅ストックの重要性が語られる際によく使われるものです。「投資と分配」、「消費者が家に使ったお金が、その後どうなったか?」これを見ると、悪循環である、という理由がはっきり見えてきます。
①左がアメリカ、②右が日本です。赤い折れ線グラフは、今まで住宅を建ててきた投資金額の累計。棒グラフは、今あなたが住宅を売った時の価格(資産額)です。

木造なら20年で価値がゼロになるのが日本のシステムです。日本が40年間やってきたその現状は、消費者がアメリカの模倣である持家政策に乗せられて、住宅と言う莫大な投資をさせられ、その投資は20年後に何も残らないことがグラフでも明確に表れています。消費者が新しさを求める限り、20年後に投資したお金がパーになる、という「自分で自分の首を絞める」状況が繰り返されてきたのです。
デベロッパーは、低コストで建物を作って作って、作って、建てつづけて来ました。その建物を仮に3000万円で買った消費者は20年住んで売ろうとすると、ゼロになる。だから、どうせ20年でゼロになるなら、より低コスト、施工のし易さで新しいものを生産することに力を入れてきました。
一方アメリカは、便利な場所で家を手に入れるなら古い建物で暮らすのが当たり前で、古い建物が評価されるマーケットが形成されていて、売る時に価値が下がらないように、自分で手入れするのがその文化・慣習です。 経済の成長が前提ですが、建物を仮に3000万円で買ったユーザーは20年住んで売ろうとすると、3500万円で売却できます。結果として、ユーザーはその売却益を元手に、もっと広い住宅に住みかえたりして、更なる豊かさを手に入れます。
ボクたち日本人はこの悪循環を、あと50年、100年繰り返してゆくのでしょうか?この好循環と悪循環の違い、藤原流の解釈は、供給側の業者が変わることはもちろんのこと、消費者である施主が「お宅通」になることなしには変わらない、というもの。仮に「お宅通」消費者がそこらじゅうに溢れてきたマーケットになれば、デベロッパーも「お宅通」に受け入れられる住宅を供給せざるを得なくなるのです。

本当にその通りだと思いました。だからこそ、藤原さんはビジネスマンとしてトップクラスの地位を得たのにもかかわらず、教育という日本人にとってもっとも必要な、レバレッジの利く世界に飛び込んだのが、自分の使命であり、やりたいことをやるのが自分の人生である、と判断されたのだと思います。
今、ボクたち日本人は、欧米に完敗していて、新興国には追いつかれそうになっています。2010年にGDPを中国に抜かれ、わずか5年後の今、日本は中国のGDPの50%に満たない国に落ちました。あっという間に抜かれて引き離されてしまったのです。「爆買い」ありがたや、等と言っている場合ではありません。(ありがたい面ももちろんありますが・・・)そういった危機感は世の中にほとんど流れていない。みんな、わかったようなフリをしているだけ。ボクたち日本人は、そこそこの豊かさを守ろうとして、自分の利益や目先の自分の明日の生活のことしか見えていないのです。これが、あと10年では変わらない、ボクに見える風景です。
じゃあ、これからの10年。UDATSUはどうすればレバレッジの利いた仕事が出来るのか?毎日、そのことだけを考えながらやってゆきます。