日本仕事百貨 掲載記事(仕入営業編)

December 03, 2015
2015/12/3 「日本仕事百科」掲載記事

共感を力に

株式会社ウダツは、古くなった建物を一旦購入してリノベーションし、売ったり貸したりしている不動産投資会社です。東京都心の物件を中心に、仕入れから企画施工、販売やアフターサービスまで、一貫して自社で手がけています。そうすることで、無駄なコストを削減しつつ、ほどよくこだわった“ちょうどいいリノベーション”を目指しています。

そんなウダツにとって命綱とも言えるのが、仕入れの仕事。

仕入れとは、不動産仲介会社と関係を築いて物件の売却情報を手に入れ、周辺の相場を調べて評価し、お目当ての物件を適正な価格で買い取る仕事です。相場をどう調査するか、適正な価格とはどれぐらいか、といった知識や感覚は現場で少しずつ身につけていけるそう。大切なのは、仲介会社の担当者と一対一の関係を築くためのコミュニケーション能力だといいます。

今回はこの仕入れをメインで担当する人を募集します。

腰を据えて取り組む気持ちのある人なら、未経験でも可能とのこと。

一定の成果を出し続けられるのであれば、仕事以外のライフワークに対応した柔軟な働き方も一緒に考えていける環境のようです。本社を訪ねて、より詳しくお話を伺ってきました。渋谷駅から歩いて10分ほど。閑静な住宅街のなかに佇む古民家の2階、ここにウダツのオフィスがある。勝手口から入って階段を上がっていくと、なんだか知り合いの家に招かれたような気分になってくる。

出迎えてくれた代表の宮島さんも、この場所と似た、あたたかな空気をまとった方。

「“不動産屋っぽくない”っていうのが、ぼくらにとって最高の褒め言葉なんです。この業界だと、稼いだ分だけ給料が上がるということ自体をモチベーションに掲げているところが多くて」

とはいえ、のんびりと商売をしているわけでもない。社員は5名という少人数ながら、今期の売り上げは10億円ほどにもなるという。

「内見のときにセールストークは決して使わないんですよ。物件ができるプロセスや、『ここで生活したらこんなふうに楽しいと思います』といったストーリーを丁寧に説明するだけ。そうすれば、欲しいと思った方は自ら買いにいらっしゃるんです」

それは購入するお客さんに対してだけでなく、物件を仕入れるときにも共通して言えることだそう。

「やみくもな飛び込み訪問はしません。むしろ、なにかあったときに思い出してもらえる人間関係を築くことが大事なんです」

思い出してもらう?

「不動産というのはそれぞれの売却する事情によっても価値が決まるものです。たとえば長年手入れがされていなかったり。あとは経営の傾いた会社が多少値段を下げてもいいからはやく売って換金したい、というケースもあります」

「そういう物件の話が出てきたときに、うちの担当者の顔をパッと思い出してもらえるかどうか。出会ったときにいい印象を残せていれば、その分いい条件で物件を紹介してもらえるし、買い取りに結びつきやすくなります」

もちろん、ある程度高い値段を提示することは判断基準のひとつにはなるけれど、それよりも思い出してもらえる人間関係をつくることのほうが大事だと話す宮島さん。まさにその人自身がウダツの顔になる仕事だ。それだけの関係を築くのは、決して容易ではない。

「すでにつながりのある不動産会社や金融機関の方からご紹介いただいたり、業界内の懇親会に参加したりするなかで、うちのモデルを知って共感していただけるようにお話しします。共感してくださった仲介会社の方々とのご縁を深めたいと考え、このオフィスに料理人を呼んで、パーティーを企画したこともありますよ」

ただ、たとえ話が合って盛り上がったとしても契約に至らない場合もあるし、仕事の表面的な話しかしていない相手からの情報で仕入れに結びついた例もある。そのあたりのバランス感覚は、現場で身につけていくそう。

「最初は同行しながら、誰に会って、どんな切り口で、どういう話をするのかという感覚をつかんでもらいます。建築や設計、金融など周辺業界の経験があれば、理解するまでの時間は短くて済むでしょうが、必ずしも経験は問いません」

この仕事に向いているのはどんな人でしょうか。

「“人たらし”的な要素はけっこうポイントですね。不動産の知識も当然ある程度は必要ですが、それよりもいろいろな人とうまく関係をつくれる人がいいです」

宮島さん自身、建築業界はまったくの未経験からはじめたからこそ、現場での進め方や働き方を柔軟に考えてこられたという。

「うちでは仕入れ以外の業務も経験してもらいます。設計や施工、販売の現場を体験してこそ、仕入れという仕事の本質が理解できますし、ウダツの事業全体を把握することができると考えています」

「ぼくも建築の仕事を一から自分でやってきたから、工事原価はどんなコストの積み上げかがわかって、そこではじめて無駄なコストも見えてきた。そのおかげで、事業としての利益も上がってきています。これは規模の小さい会社ならではかもしれませんね」

現在仕入れ担当として働いている横井さんも、現場監督やお客さんの案内などを経験したことが活きていると話す。

「たとえばキッチンのダクトをどういうルートで通すべきかということが、リノベーションではすごく重要になってくるんですよね。ところが、仕入れのときにはオーナーが使用中の物件を見ることになるので、ダクトは壁や天井に隠れて見えないわけです」

「現場監督をしながら、解体の様子や大工さんの仕事を知ることで、表面的には見えないところまで見えるようになってきました」

現場を知ったおかげで、完成物件の案内時にお客さんから質問されてもすぐに答えられるようになり、仕入れの時点での見え方も変わってきたという。今回入る人も、1年目は仕入れに同行しつつ、こうしたウダツの業務全体に関わっていくことになる。未経験でもいいとはいえ、いきなり幅広く仕事を任せられるという意味では、なかなか大変なのでは?

「はい、大変です(笑)。自分の親父くらいの大工さんたちに向かって指示しなければならないですし、マンションで騒音の問題が出てきてしまったときに、管理人さんや住民の方とのやりとりもします。共用部の廊下を掃除したり、解体で出た廃材をトラックで運んだりもします」

「大変なんですが、自分ですべてを経験した上で買主さんに喜んでもらえたときは、もう最高ですよね。いざとなったら宮島に聞くこともできますし、たくさんの人と関わるので、なによりコミュニケーションの力がつくと思います」

大工さんやマンションの住民のみならず、仕入れ先の不動産屋さんや内見にくるお客さんもさまざま。どの場面を切り取っても鍛えられるという。

「コミュニケーション能力の定義っていろいろあると思うんですけど、ぼく個人としては聴く・話すのバランスだと思っています。宮島と話すにしても、素直に聴くことは聴いて、主張したいことはちゃんと話す。そのバランスもそうですし、仕事内容も偏らずに、マルチにできる人がいいですね」

そんな横井さんは、ウダツでの仕事の他にライフワークとして取り組んでいることがある。

「ぼくは生まれつき重度のアトピーで、今こうして人前に出られているのが奇跡的なぐらい、昔はひどかったんです。アトピーはかゆい病気だと知られていても、その先のさまざまな問題についてはあまり理解されていなくて」

一般的に知られていないばかりか、明確な治療法も確立していないため、アトピーと闘う人たち自身も困っているという。

「そこで、NPO法人『アトピーを良くしたい』を設立しました。アトピーの人たち同士の情報交換会を月に1、2回開き、毎回15名ほどの方が参加してくださっています」

「そこでのキーワードは“共感”なんです。やっぱり、実体験がある人同士だとわかりあえるんですよね」

「現在は東京を中心に活動していますが、地方からも声がかかることが増えてきました。これからこの会を全国展開することで、アトピーが良くなる社会を創っていきたいです」

横井さんは、週のうち4日はウダツでの仕事をし、水曜日と土日を使ってこのNPOの活動をしている。主に企業からの寄付を活動資金にあてているため、平日の水曜日に時間を使えることの意義は大きい。

「この環境をチャンスと捉えるか、ただ単に与えられた環境と捉えるかの違いは大きいかもしれません。ぼくは、こんなチャンスは誰でもつかめるものではないと思っているので、この環境に感謝しています」

「なぜそう感じられるかといえば、たぶんライフワークの本気度ですよね。NPOで達成したいものが強ければ強いほど、ウダツでもがんばって恩返ししようという気持ちが湧いてくる。そうすると、仕事とライフワークがバランスよく融合するんじゃないかなと思っているんです」

仕事をしながらライフワークを両立したい。そんな強い想いを抱いている人にとっては、これ以上ない環境と言えるのかもしれない。

この話のあとに、宮島さんはこんなことを話していた。

「ワークライフバランスという言葉がありますよね。ワークは生活の糧を得るための仕事で、苦しいもの。ライフは生きがいや趣味趣向、つまり楽しいもの。このふたつのバランスがとれるようにトレードオフしようという考え方がそれだとするなら、うちには合わないなと思っていて」

「やっぱり、どっちも楽しいほうがいいですよ」

今後より多様な働き方を実現するため、月曜日は在宅勤務を試しているという宮島さん。

普段は顔の見える距離感で仕事をしている分、遠隔で仕事をする際のよいところも不便なところもあえて知るために、そんな日を設けているそうだ。

最後にもうひとつ、印象的だった言葉を紹介したい。

「去年からね、毎年12月の給料は現金で手渡しすることにしたんです。どうしてかというと、お金が数字になっちゃっているから」

「現物の重みで渡すっていうのと、あとは『がんばってくれてありがとう』っていう感謝の言葉を普段ほとんど言う機会がないから、それも一緒に渡したい。そして給料を受け取って生活ができることに対して感謝が返ってくる。すごく大事なことなのに、すーっと流れてしまっていたので、これからは毎年のイベントということにしています」

ウダツの手がける物件やスタンス、なにより人に対する「感謝」と「共感」が、仕事とライフワークの両方において原動力となっているように感じました。

2015/12/3 中川晃輔